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ふうりゅうたいへいき
風流太平記
山本 周五郎
「四国新聞」1952(昭和27)年12月12日~1953(昭和28)年7月13日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 244,473 字 · 487 页
三
三
山ぐには日の昏れるのが早い。
残照がいっとき明るく部屋にながれ込んだと思うと、いつかしら、盃を持つ手許がたそがれて来た。
「これはいけない、合い部屋になりそうですよ」
飲みながら街道を眺めていた兵馬が、そう云って渋い顔をした。
「合い部屋ですって」
「入れこみですよ、つまりこの部屋へほかの客もいっしょに泊るというわけです」
「すると銭湯のようなものですな」
こう云いながら、万三郎も覗いてみた。
この笹屋の前にも、四頭ばかりの荷駄が停り、人足や旅装の侍たちが右往左往していた。どこかの大名でも着いたのであろうか、――それにしては、鳥沢か大月に泊る筈である。猿橋は間の宿で、大名の泊るような設備はないようにみえるが、万三郎がそう思っていると、まもなく女中が灯をいれた行燈を持って来て、兵馬の予言どおり合い宿を申し込んだ。
「済みませんけど、急に大勢さんのお客が着きましたでどうかお頼み申します」
と女中は恐縮そうに云った。
「なにしろ二十何人という人数ですで、旅籠ぜんぶに割振ってようやくっていうわけでございますから」
「大名でも着いたのかい」
兵馬が訊いた。
「いいえ、お大名じゃございません、お侍衆だけでございます」