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ふうりゅうたいへいき
風流太平記
山本 周五郎
「四国新聞」1952(昭和27)年12月12日~1953(昭和28)年7月13日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 244,473 字 · 487 页
休之助は口をつぐんだ。じっと死躰を見まもり、それから弟へ眼を戻した。
「升屋のときの人か」
「――そうです」
「なに者なんだ」
「――石黒先生でした」
休之助はあっという眼つきをした。すぐには信じられなかったようである。観音谷で、万三郎が半兵衛を斬らずに逃がしたとき、ひどく乱暴に叱りつけた。その半兵衛が二度まで自分たちに助勢をし、ついに此処で斬死にをした。しかも石黒半兵衛であることを知らせず、覆面の剣士として死んだのである。――そのことが、気の強いだけよけいに、休之助をまいらせたようにみえた。
「――臨終にまにあったか」
休之助が低い声で聞いた。
「満足して死ぬ、と云われました」
と万三郎が答えた。休之助はその言葉を口の中で(味わうように)呟いてから、ふと弟を見て云った。
「きさま、罪な人間だぞ」
万三郎は眼を伏せた。兄の云おうとする意味がよくわかったからであるが、――そのとき休之助は殆んどとびあがりそうになって、
「誰だ、――」
と叫んだ。
石塁の蔭から、すっとかよが現われた。
万三郎は眼をみはった。休之助はうっといい、弟のほうへ振返った。かよは静かにおじぎをしながら云った。