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ふうりゅうたいへいき
風流太平記
山本 周五郎
「四国新聞」1952(昭和27)年12月12日~1953(昭和28)年7月13日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 244,473 字 · 487 页
「出ていって下さい」
つなははねつけるように云った。
「わたくしはなにも云いません、またなにも聞きたくありません、二度とわたくしに口をきかないで下さい」
「それでよろしいの、本当に」
「――――」
「あたしとあなたとはもう立場が違いますのよ、あなたが甲野のお嬢さんでも、あたしはもう哀れな孤児の厄介者じゃございませんのよ、あなたはいま、かよに命乞いをなさらなければならない筈だわ」
つなは黙って壁のほうへ向き直った。かよは笑って、手燭を持って立った。
「では気が折れたら呼んで下さいな、あたしもうしばらく此処にいるつもりですから」
「――――」
「それから万三郎さまになにかお言づけはなくって」
そう云って、大きくからからと笑いながら、かよは階下へおりていった。
――万三郎に言づけ。
つなの心は昏乱した。
かよの話をぜんぶ信じはしなかった。しかしすべてが嘘とも思えなかった。増六のことを知っているとすれば、かよと万三郎とのあいだに、どの程度かの交渉があったことは事実らしい。
――どの程度か。
つなは思わず口の中でそっと呼びかけた。
「いまどこにいらっしゃいますの、万三郎さま、どこに、――」