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ふうりゅうたいへいき
風流太平記
山本 周五郎
「四国新聞」1952(昭和27)年12月12日~1953(昭和28)年7月13日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 244,473 字 · 487 页
江戸の霜
一
徹之助は初め、老中筆頭の松平越中守(定信)に会うつもりであった。
この「朱雀調べ」の主要な庇護者は、井伊兵部少輔である。兵部少輔直明は、本家掃部頭直中の弟で、所領は越後国与板二万石。そのとし若年寄になっていた。
もちろん掃部頭直中も、この事を承知であって、だからこそ深川はまぐり町の下屋敷に、かれらの本拠を置かせたのであるが、それ以上のことはできない立場にあった。――というのは、兄弟の父である掃部頭直幸は、さきの老中田沼主殿頭と親しく、大老職にあったのであるが、田沼氏が失脚するとまもなく、大老を免ぜられた。これは単に大老を免ぜられただけでなく、田沼氏と関係のあったことに対する譴責の意味もあるので、直幸はすぐに隠居し、直中に家督を継がせたのであった。
すでに周知のことだろうが、田沼一派の勢力を逐い井伊大老を罷免したのは、事実上、松平越中守であった。そうして、越中守の背後には、紀伊、尾張、水戸の三家をはじめ、保守派の強い支持があったのである。
徹之助は初め直明に向って、
――事が重大であるから、越中守に会って話したい。
と頼んでみた。
直明は兄の掃部頭と相談したらしい。