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ふうりゅうたいへいき
風流太平記
山本 周五郎
「四国新聞」1952(昭和27)年12月12日~1953(昭和28)年7月13日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 244,473 字 · 487 页
叢林の中へ逃げ込むのに、馬が跟いて来ては、追手に所在を教えるようなものだ。馬を離さなければいけない、――彼はそう気づいて、一段ばかり駆けあがったところで、道の左側の斜面へと、雑木林をかきわけながらよじ登った。
斜面は胸を衝くほど急であり、雑木林はびっしりと枝を交わしていた。
多くは若木であったが、休之助はその木から木を伝い、さし交わした枝をすりぬけたりくぐったりしながら、息を限りにぐんぐん登った。
彼の登って来た道のあたりで、二度三度、高く馬が嘶いた。それは「私には登れませんよ」と云っているようであった。また「どうか伴れていって下さい、おいてきぼりにしないで下さい」と云っているようでもあった。
「――なんていう馬だ」
休之助は舌打ちをした。
たかが雇い馬で、こんなに人なつっこいのもないだろう。可笑しくもあり、哀れでもあるが、場合が場合なので肚も立った。
追手は果してその声をめあてに来た。
「この上だ、おーい」
そういう叫びが聞えた。左手の、遙か下のほうでそれに答える声がし、こっちから廻ると云うのが聞えた。
「上の大松のあたりだぞ」
休之助はけんめいに登り続けた。