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ふうりゅうたいへいき

風流太平記

山本 周五郎

「四国新聞」1952(昭和27)年12月12日~1953(昭和28)年7月13日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 244,473 字 · 487 页

青空文庫

「それから山の頂上へ登って、そのときその、北のほうにまた山が見えたものだから」

「加波山ていうだよ」

「たぶんそうだろうと思って」

彼は額の汗を拭いた。

「ちょっとみると尾根づたいにゆけそうだったものだから、それがどうもなかなか」

「若い人はよくそれで間違うだ」

五郎兵衛はそこで、娘のほうを振向いて云った。

「お梅、かまの火を見て来う」

「あい、おじいさん」

娘はすぐに立って、炭焼きがまの火をみるのだろう、小屋の外へと出ていった。小屋の引戸を閉めるとき、

「あれいいお月さまだ」

と彼女の云うのが聞えた。娘が去ると、老人は眼をあげて、じっと休之助の顔を見た。それまでとは違って、こっちをどきりとさせるような、底光りのする眼つきであった。

「昏れ方に代官所から、人が来ただよ」

老人は低い声で云った。

休之助はちょうど喰べ終ったところだった。熱い湯を椀に注いで、飲もうとしていたが、その椀を両手で持ったまま、息をのんで老人を見た。

「わしは信じないが、役人は謀反人と云っていただ、江戸から逃亡した謀反人だってよ、――おまえさまが入って来たとき、わしはすぐにこの人だなと思った」