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ふうりゅうたいへいき

風流太平記

山本 周五郎

「四国新聞」1952(昭和27)年12月12日~1953(昭和28)年7月13日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 244,473 字 · 487 页

青空文庫

――さっき触らなかったのは幸運だった。

もしもゆくときに触れていたらと思うと、万三郎は走りながらもぞっとした。鳴子の音と同時に、人の叫びが聞え、うしろのほうで雨戸のあく音がした。

二人は虎造の小屋の蔭へとびこみ、そこから土塀までひと息に走った。

裏門の番小屋があき、灯の光りがみえた。竹梯子は元のままになっていた。彼はつなを先に登らせた。

「雪で滑るから注意して下さい」

つなはすばやく登った。

そのとき、松明を持った十四五人の者が、裏門の処へ駆けつけて来た。吹雪を透して、松明のはぜる火の粉が美しく見え、人々の罵り喚く声がま近に聞えた。

つなのあとから梯子を登った万三郎は、自分が先にとびおりた。そこは吹溜りで、雪がもう三尺ばかりも積っていた。彼はすぐにつなのほうへ手を伸ばしたが、彼女はそれより早くとびおりた。しかしそのとき足首をどうかしたらしく、立とうとしてああと声をあげ、よろめいて膝をついた。

「挫きましたか」

万三郎はすぐに援け起こした。

向うで裏門のあく音がし、同時に、二人の頭上で絶叫する者がいた。

「おーいこっちだ、此処にいるぞ、此処だ」

梯子が発見されたのだ。