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ふうりゅうたいへいき
風流太平記
山本 周五郎
「四国新聞」1952(昭和27)年12月12日~1953(昭和28)年7月13日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 244,473 字 · 487 页
五
半次は当惑していた。おちづの話はよくわからない、はっきり意味はわからないが、なにかしら聞いては悪いような、また禁じられている秘密に触れるような感じで、われ知らず胸がどきどきした。
「もうそれでおしまいにしてくんな、そして寝ることにしよう」
「あたし眠れやしないわ」
「腹が減ってるんだろう」
半次はふところから焼芋の袋を出し、おちづに与えて、藁束の上へ横になった。
五
「半ちゃんは喰べないの」
「おらあ喰べて来た」
半次は頭の下で両手を組んだ。おちづはまだときどきしゃくりあげながら、空腹だったのだろう、もう冷たくなっている焼芋を、むさぼるように喰べた。
「おらあ明日、旅へ出るぜ」
半次が云った。
「旅って、――遠いの」
「紀州の田辺ってとこへゆかなくちゃならねえんだ」
「お屋敷のお使い」
「もうほかに人がいねえし、いろんな事がむずかしくなったから、いそいでゆかなくちゃならねえんだ」
「紀州って遠いんでしょう」
「当りきよ、お伊勢さまよりもっと遠いんだぜ」
「箱根とどっちかしら」
「そりゃあおめえ、――」
半次は詰った。おちづも彼も、箱根そのものを知らないのである、当時の江戸では「箱根から向うは化物が出る」