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ふうりゅうたいへいき

風流太平記

山本 周五郎

「四国新聞」1952(昭和27)年12月12日~1953(昭和28)年7月13日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 244,473 字 · 487 页

青空文庫

おちづは頬ずりをしながら囁いた。

「いっしょに伴れてってくれるわね、半ちゃん」

耳に触れるおちづの熱い息で、半次はそこが焼けるように思った。

「伴れていければいきてえけど、入り鉄砲に出女といって、女が江戸から出るのはやかましいんだぜ」

「あんたに心配はかけないわ、自分のことは自分でやってよ」

「そう安く云ったっておめえ」

半次はぱっととび起きた。

納屋の表の戸があいて、提灯の光りがさし込み、二三人の男が(心張り棒などを持って)どかどかと入って来た。

「誰だ、そこにいるのは誰だ」

半次はおちづを押しやり、

「先へ逃げな」

と囁きざま、藁束を取って、かれらのほうへ投げた。三つ四つ、続けざまに投げつけ、おちづが逃げたのを認めてから、自分も裏のぬけ穴をくぐって、すばやく外へ脱出した。

「泥棒、泥棒だ」

男たちが喚きたてた。

「半ちゃん、こっちよ」

おちづは河岸に立っていた。半次は黙って、おちづに手を振り、いっさんに将監橋のほうへ駆けだした。

「待ってよ、ねえ待って」

おちづがうしろから走りながら云った。

「そんなに早く駆けないでよ、半ちゃん、こっちの路地へ入ればいいじゃないの」