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ふうりゅうたいへいき
風流太平記
山本 周五郎
「四国新聞」1952(昭和27)年12月12日~1953(昭和28)年7月13日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 244,473 字 · 487 页
ほきョきョ、ほっきョきョ。
といったふうな、かた言の鳴き方であるが、静かな谷にこだまして、いかにも春のおとずれのように、冴えて聞えた。
万三郎は向うを見た。つなは道を曲って、もうその姿は見えなかった。彼は頭上の枝をふり仰いで、鶯に向って話しかけた。
「よせよせ、ばかばかしい、おまえ雌を呼んでるんだろう、つまらねえぞ雌なんか、あんなものはうっちゃっとけよ、すべて雌なんてものは、――」
彼はふいに口をつぐんだ。
とつぜん鶯が鳴きやんで、吃驚するほど高い羽音を立てながら、谷のほうへと飛び去った。そして、(たぶんそれに驚いたのであろうが)右側の山の斜面のかなり上のほうで、ざらざらと土や枯葉の崩れ落ちる音がした。
彼は身を片寄せて、そっと音のしたほうを見あげた。
そこは斜面いっぱいに、上へ上へと枯れた雑木林が重なり、そこに混って若木の梅が一本だけ白くちらほらと咲きだしているのが見えた。
暫く見あげていると、彼が見当をつけたよりはずっと右のほうで、また土の崩れる音がし、雑木林を縫って黒い人影がすばやく、まるで猿のようにすばやく、山の上のほうへと登ってゆくのが見えた。