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ふうりゅうたいへいき
風流太平記
山本 周五郎
「四国新聞」1952(昭和27)年12月12日~1953(昭和28)年7月13日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 244,473 字 · 487 页
観音谷
一
「――なに者だろう」
そう呟きながら、なお彼はそちらを見まもっていた。
谷のかなたで、また鶯が鳴き始めた。
観音谷
一
かれらの隠れ家は松林の中にあった。
そこは真壁郡の長岡という村から、加波山に向って二十町ほど登ったところで、捨てられた古い樵夫小屋に手をいれたものである。
それは休之助が筑波山麓から迷いこみ、僧正寺の山中で世話になった炭焼きの五郎兵衛老人から教えられたもので、お梅というあの孫娘が案内して呉れたのであった。
その小屋には、五年前まで与兵衛という樵夫がいた。五郎兵衛老人がまだ結城の町で、松倉屋という糸屋を経営していたころ、与兵衛はずっと薪を納めていた。松倉屋が取潰され、五郎兵衛が孫娘と二人で山へ隠れたとき炭焼きを始めるまでの世話をしたのは彼であるが、五年まえに病死したあと、その小屋は住む者もなく、朽ちるままになっていた。
長岡の村から登って来る細い杣道が、二つに岐れて、一は頂上のほうへ向い、一は右の弁天谷のほうへ迂曲してゆく。その岐点の一段ばかり下のところを左がわの松林の中へはいったところに、その小屋があった。
古り朽ちてはいるが、広い土間に、炉の間と納戸があり、土間には竈もあった。