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ふうりゅうたいへいき

風流太平記

山本 周五郎

「四国新聞」1952(昭和27)年12月12日~1953(昭和28)年7月13日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 244,473 字 · 487 页

青空文庫

裏の崖に清水の湧くところがあって、一日じゅう筧から余るほど水が出ていた。まわりはいちめんの叢林だから、焚き物にも困らない。隠棲閑居にはもってこいの場所であった。

杣道はまえから廃道になっていたとみえ、かれらが住むようになって以来、かって人の姿をみかけたことがなかった。

昏れ方であった――

万三郎は裏の筧で顔を洗い、小屋の前へまわって来ると、

「どこをうろうろしているんだ」

いきなりどなりつけられた。

「えっ、な、なんですか」

万三郎は吃驚した。あんまり突然だったし、おそろしく高い声でどなられたので、われ知らずうしろへとび退いたくらいだった。

戸口の前に兄の休之助が立っていた。

休之助は凄いような眼をして、口をへの字なりにして、いまにも殴りつけそうな姿勢で立ちはだかっていた。

「どうしたんです、なにを怒っているんですか」

「どこをほっつき歩いているんだ」

休之助はさらにどなった。

「必要のない限り出歩くなと云ってあるじゃないか、どこに敵の目があるかわからない、用心の上にも用心をしなければならないのに、なにを毎日うろうろしているんだ」

「うろうろなんかしませんよ」