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ふうりゅうたいへいき

風流太平記

山本 周五郎

「四国新聞」1952(昭和27)年12月12日~1953(昭和28)年7月13日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 244,473 字 · 487 页

青空文庫

私たちのようすをうかがっていたらしく、猿のようにすばしっこく逃げてゆくのを見ました」

「それで昨日も今日も出あるいていたのか」

「そうです」

万三郎は曲者の覆面を解きながら云った。

「ようすをうかがっていたのなら、また来るに相違ないと思ったんです、それで弁天谷の口のところを注意していたんです」

「それならそうと云えばいいじゃないか、なぜ黙っていたんだ」

「云ったって同じですよ」

万三郎は少しばかりさっきの仕返しをするように答えた。

「私のすることは休さんにはなんだって気にいらないんだから」

「よせ、ばかなことばかり云うやつだ」

休之助は顔をそむけたが、唇のあたりには微笑がうかんでいた。

つなが手燭を持って来た。

もう戸外もすっかり暗くなっていた、万三郎はつなから手燭を受取り、曲者の前へいってその風態をしらべた。

年は二十三四、色の黒い、尖ったような顔つきで、格闘したときに擦剥いたのだろう、左の頬骨のところに血が滲んでいた。

「きさま、紀伊家の者だな」

「訊いてもむだだ」

と曲者が云った。

「おらあなにも饒舌らねえ」

「というとなにか知っているわけだな」

「なにを知るもんか、知っているのは、おめえらが悪者で、いつかみんな捉まってお仕置になる、ってえことだけだ」