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ふうりゅうたいへいき

風流太平記

山本 周五郎

「四国新聞」1952(昭和27)年12月12日~1953(昭和28)年7月13日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 244,473 字 · 487 页

青空文庫

そのとき観音谷の地形が、ほぼ眼の下に眺望できた。櫛形の月が空にあるので、狭い谷あいはかなり明るかった。

三棟の長い丸太小屋と、少し離れて、谷のどん詰りにばかげたほど大きな、荒壁の庫が三棟。それから厩らしい建物もあった。

「ばかに静かだな」

「もっと低い声で話して下せえ」

と伝次が囁いた。

「此処では夜になると声を出しちゃいけねえことになってるです、おらたちは話をしてもいけねえし、お侍たちもこのくれえの声で話すですよ」

もういちど繩梯子をおりた。

この辺は二千尺ちかい高さだから、さすがに気温が低く、吐く息が、月の光りに白く凍って見えた。

基地におりると、杉丸太で組んだ柵があり、木戸口に二人(やはり忍び装束の)番人が立っていた。伝次は先に立って、

「境内見廻り、――」

と低い声で番人に云った。

番人は木戸をあけて通した。かれらが素槍を持っているのを、万三郎は認めた。

――どうぞそうお願いします。

と云ったつなの声が、ふと耳の中で聞えるように思った。

二人が庫の近くまでいったとき、向うに提灯の火が見え、馬の嘶く声が聞えた。

「荷駄が着いたですよ」

と伝次が囁いた。