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ふうりゅうたいへいき

風流太平記

山本 周五郎

「四国新聞」1952(昭和27)年12月12日~1953(昭和28)年7月13日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 244,473 字 · 487 页

青空文庫

谷尻の木戸のところには、もうかよと男の姿は見えなかった。

「太夫は出てゆかれたですか」

いかにも用ありげに、伝次に訊かせると、番士は素槍で山のほうをさした。素槍の穂尖が月を映してぎらっと光った。

「山の上へ月を見にゆくと云っておられた」

「酒を持って来いと云われたで」

と伝次は一升徳利を示し、

「これから届けにいって来ます」

番士は木戸をあけた。

二人は外へ出ると、すばやく第一の繩梯子を登り、そこからすぐ右へ、叢林の中をぬけてゆき、(第二の繩梯子は登らずに)急斜面をまっすぐに、加波山神社の境内へと出た。

もしかしてそこまで来ないのではないかと思ったが、かれらが境内へ入るのと殆んど同時に、渡辺蔵人という男の声が聞え御手洗のところへ二人の来るのが見えた。

「――向うで待て」

万三郎は伝次を遠ざけて、樹の蔭から蔭を伝いながら二人のほうへ近づいていった。

「それは本当のことですか」

かよの声が聞えた。

「こんなことを冗談に云えるか」

「でもそれだけで万事だめになるというわけでもないでしょう」

「わからん、――」

男は首を振った。

「まあ腰をおろして話そう」

二人は社殿の広縁へいって腰を掛けた。