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ふうりゅうたいへいき

風流太平記

山本 周五郎

「四国新聞」1952(昭和27)年12月12日~1953(昭和28)年7月13日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 244,473 字 · 487 页

青空文庫

二

蔵人も片手に盃を持っていたが、掴んだかよの手は放さなかった。

「よく聞いてくれ、かよ、話というのはこれからなんだ」

「まあ放して下さいまし、そんなに乱暴になすっては痛うございますわ」

「やぼな声を出すな」

「ではこれを頂きますから」

かよは盃の酒を飲んだ。そうすれば相手に隙ができると思ったらしい、が、蔵人は少しも油断しなかった。

「おれはもうだめだと睨んだ」

と彼は声をひそめて云った。

「仮にだめでないとしても、この辺が退却の汐刻だと思う」

二

「なんの汐刻ですって」

「おちついて聞くんだ、いいか」

蔵人はかよの手をぐっとひき寄せた。

「おれは握るだけの金を握った、大阪に家も買ってある。一生遊んで、贅沢三昧に暮す準備がすっかり出来ているんだ」

「では、――ではあなたは」

かよは身もがきをした。

「事が危なくなったので、御自分だけ身をれて、安楽に暮そうと仰しゃるのですか」

「危なくなったからではない、初めからそのつもりでいたんだ」

「初めからって、――」

「そもそもの初めからさ、こんな大それた、夢みたような企みが成功する筈はない、そのうちには邪魔がはいるか、お屋形御自身が飽きるに違いない、そのときまでに掴めるだけのものを掴んでやろう、そう思って奔走していたんだ」