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ふうりゅうたいへいき

風流太平記

山本 周五郎

「四国新聞」1952(昭和27)年12月12日~1953(昭和28)年7月13日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 244,473 字 · 487 页

青空文庫

三

そして、その緊張したまるみの上に、茜木綿の短いふたのが覗いているのが、少年たちにとってはまったく閉口ものであった。

それこそ正に「かなわない」ものであった。

「女なんかなんでえ」

いちばん大きな少年がうしろへ退った。

「なんでえ女なんか、女なんか相手にするかえ、喧嘩は男と男でするもんだ、なにいってやんでえ」

「くそったれあまア」

小さい子供の一人が、こう悪態をつくなり逃げだした。

「井伊さまなんか怖かねえぞ」

その井伊さまが決定的に効いた。続いて一人、また一人、いちばん大きな少年までが、――彼は唾を吐きかけたが――思いきりよく逃げていった。

「怖かねえぞ、井伊さまなんか」

かれらは逃げながら喚いた。

「ざまあみやがれ、くそったれあまア」

三

半次はおちづの手を振り放し、掴まれていた腕を撫でながら、さもいまいましそうに唾を吐いた。

「よけえなことをしやがって」

彼の眼から涙がこぼれた。

「どうしてでしゃばるんだ、おいらが負けるとでも思ったのか」

「深川っ子は危ないのよ」

「危ねえからどうしたっていうんだ」

半次は歩きだした。おちづは急にしょげて、あとからついてゆきながら、おろおろと機嫌をとるように云った。