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ふうりゅうたいへいき
風流太平記
山本 周五郎
「四国新聞」1952(昭和27)年12月12日~1953(昭和28)年7月13日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 244,473 字 · 487 页
好きな人もないし、男なんてけだものだと思っていられるうちは、あんたの云うようにやれるだろうけど、いちど好きな人ができ、情愛というものを知ってしまうと、――女はもうだめ、こんどはまた泣く番がまわってくるのよ」
おちづはじっと姐さんの顔をみつめた。
「――姐さんにも、好きな人がいるのね」
「そりゃあおまえ、あたしだって女だもの」
「――いまでもいるの」
「あたしはあんたに話してるんじゃないの」
松吉は釵で頭を掻いた。
「半ちゃんていう子が帰って来て、あんたと会うことができたにしても、お互いに年も若いしすぐいっしょになれるわけじゃない、あんたはあんたで稼ぎ、半ちゃんにもなにか職を覚えてもらって、さきを楽しみに辛抱するんだわね」
「ええ、そうするつもりです」
おちづは仔細らしく頷いた。
「だからあたし、半ちゃんが帰ったら此処へ来るように半ちゃんの知っている家へ頼んでおいたんです」
「あたしもできるだけのことはしてあげるつもりよ、――このしょうばいには、あんたなんぞの知らない辛いことがいろいろある、それも八方から義理に絡まれて、泣いても泣ききれないような事さえあるんだよ」