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ふうりゅうたいへいき
風流太平記
山本 周五郎
「四国新聞」1952(昭和27)年12月12日~1953(昭和28)年7月13日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 244,473 字 · 487 页
――とうまるでは囚人を護送するとうまる駕籠を連想するから、これはいやがらせと思うのもむりはないであろう。――しかしその東麿老人の妻女が、万三郎の世話をしてくれるのであった。
万三郎はかよの住居へいった。
かよは障子をあけ放した八帖にいて、とり澄ました恰好で、謡曲をうたっていたが、万三郎が来たのを見ると、ぴたっとうたいやめ、てれたように、首をすくめながら舌を出した。
「いまうたっていた謡曲は、なんというんです」
「いやですわ、謡曲だなんて」
かよはまた首をすくめた。
「わたくしのはうろ覚えで、ひとのうたっているのを聞いたんです、わたくしには謡を稽古するような時間はございませんでしたわ」
「それにしては上手じゃありませんか、なんというんです」
万三郎は広縁に腰をおろした。
「なぜそんなに気になさいますの、御存じなのでしょ、三郎さま」
「知らないから訊くんですよ」
「あらそうかしら、――」
こう云って、かよはいたずらそうに、横眼で彼を見た。
――ふしぎな女だ。
万三郎は心のなかで思った。
初めて築地飯田町の「増六」で逢ったときから、敵味方に分れながら、どこかに深いつながりが感じられた。