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ふうりゅうたいへいき

風流太平記

山本 周五郎

「四国新聞」1952(昭和27)年12月12日~1953(昭和28)年7月13日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 244,473 字 · 487 页

青空文庫

三

見ぬ恋にあこがれていた、というかよの言葉は、おそらく嘘ではなかったろう。が、それだけではなく、彼女のすること云うことのすべてが、いちいち万三郎の心に温たかくしみいるようである。

いま謡を聞かれた恥ずかしさに、首をすくめたり、舌を出したりしたが、

――つななら決してそんなことをしない。

と思うし、いかにもかよに似合っていて、むしろ微笑ましいほど愛らしくみえた。

三

――こんな妹があったら、さぞ可愛いことだろうな。

万三郎はそう思いながら、

「知っているなら教えてもいいでしょう、なんという謡曲ですか」

「わたくし知ってますわ」

「じゃあ教えて下さい」

「いいえ謡じゃなく、あなたがどうしてお訊きになりたいかということ」

「――悪い癖だ」

万三郎は手を振った。

「貴女はいつも話をはぐらかす、肝心なところになるときまってはぐらかすんだから」

「はぐらかしはしませんわ、本当のことを云っているんです、あなたはつなさんがうたっていらしったので、なんという謡かお知りになりたいんでしょ」

「それはまあ、それもあるが」

「あらいやだ、お顔を染めたりなすって、三郎さまもずいぶんだこと、――でもね」