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ふうりゅうたいへいき
風流太平記
山本 周五郎
「四国新聞」1952(昭和27)年12月12日~1953(昭和28)年7月13日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 244,473 字 · 487 页
――たぶん相手が払うんだろう、向うのほうが上役なんだから、まさかこっちにおんぶすることもないだろうが、それにしても万一ということがあるからな。
兄貴のやつ吝なことをしないで、もう二三枚呉れておけばいいのに。などと、肚のなかで舌打ちをした。
「とにかく、思い遣りというものがないんだ」
「はい、なんでございますか」
つい知らず云った独り言を聞きつけられ、万三郎はどぎまぎして頭を掻いた。
「いやなに、べつに、こっちのことです」
女はふっと笑った。万三郎のまごついたようすが、子供めいていて可笑しかったらしい。好意のあらわれた笑い方で、数寄屋のひと棟へ案内した。
「どうぞ此処で暫く、――」
そう云って女は去った。
数寄屋は深い樹立に囲まれていた。彼の通されたのは、炉の切ってある部屋で、無風流な彼にはわからないが、火のない炉に、古ぼけたような茶釜が掛っていた。天床は網代というのだろう、壁は砂ずりだし、なにかの消息の残欠で裾張りがしてあるが、これも彼の眼には、書き損じの反故にしか見えなかった。
「壁が古くなって剥げたので、反故っ紙で繕ったんだろう」
軽蔑したように呟いた。