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ふうりゅうたいへいき

風流太平記

山本 周五郎

「四国新聞」1952(昭和27)年12月12日~1953(昭和28)年7月13日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 244,473 字 · 487 页

青空文庫

――まだ五度ぐらいしか来ていないが、おちづは此処でも女中たちに好かれていた。升屋は(まえに記したように)貴顕の客が多いので、女中たちの躾がきびしく、行儀作法も一般の料亭とは違うので、もちろん座敷の手伝いなどはできなかったが、おちづは内所のこまごました雑用や、廊下までの手伝いは手まめにするので、みんなが「ちいちゃん」といって可愛がってくれるのであった。

「あたしお手伝いするわ」

夕食を終るとすぐ、彼女は襷をかけて甲斐甲斐しく立った。

「いいから坐ってらっしゃい」

女中頭のお紋が云った。

「岡さまがいらしっているときは、定っている係りの者のほかは、お座敷へ近よってもいけないんだから、今夜はお手伝いはしてくれなくてもいいのよ」

「だってあたしならいい筈よ、松吉姐さんのうちの者なんですもの」

「それでもだめ、今夜はじっとしていらっしゃい」

おちづは口を尖らせた。

四

――岡さまの来ているときは特にやかましい、定っている係りの女中のほかは、座敷へ近よることもできない。

女中頭の云った言葉が、少し経ってからおちづに一種の不審を起こさせた。

それは舟の中で、岡さまの顔つきの、ふしぎな変化を見たあとだったからかもしれない。