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ふうりゅうたいへいき
風流太平記
山本 周五郎
「四国新聞」1952(昭和27)年12月12日~1953(昭和28)年7月13日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 244,473 字 · 487 页
渡し舟をあがってから、つなはそっと口の中で呟いた。
「いつもあの方の弱点にばかり眼をつけて、あげ足を取るようなことをして来たようだ、もっと良いところを認めて、劬ってあげ、慰め、励ましてあげるようにしよう、――悪いところも欠点も、無条件でうけいれることが愛することだ、というのは本当かもしれない、それが女の愛というものかもしれない」
渡し場へあがると真崎稲荷で、そこを左へまわってゆくと、舟入り堀に沿って和泉屋の寮がある。つなは気をとり直して、足早に裏木戸のほうへ近寄っていった。
すると、その木戸の外に、色街の者と思われる少女が一人、なにやら躊いぎみに往ったり来たりしていた。
「なにか御用ですか」
つなが声をかけると、少女は吃驚して振返った。そして、つなを見るなり、あっと声をあげた。
「あっ、甲野さまのお嬢さま」
「――だあれ、あなたは」
「おちづです、いいえあの、半ちゃんの友達のちい公です」
「――まあ、あなたが」
つなは眼をみはった。
金杉の半次といつもいっしょにいた娘、乞食のような恰好をして、街をとび歩いていたちい公。髪をきれいに結いあげ、着物も帯も派手な物ではあるがきちんと着付けている。