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ふうりゅうたいへいき

風流太平記

山本 周五郎

「四国新聞」1952(昭和27)年12月12日~1953(昭和28)年7月13日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 244,473 字 · 487 页

青空文庫

――これは変だ。

万三郎はそう直感した。

「小父さんのばか」

少年が悲鳴のように叫んだ。

「捉まっちゃうじゃないか、ばか、ばか」

万三郎は走りだした。少年は、こっちだよと叫びながら、先になってつぶてのように走ってゆく。万三郎も片手で刀を押え、片手では旅嚢の紐を押えながら、少年のあとを追ってけんめいに駆けていった。

「――待て、待て」

うしろで声がした。

――これはどういうことだ。

走りながら万三郎は思った。

――まるで狐に化かされたようじゃないか。

舟入り堀に沿った道を、浜松町の通りへ出て曲るとき振返って見ると、紀州家の侍二人は、十二三間あとから追って来る。

「お待ちなさい」

なぜ逃げるんだ、と叫んでいる声も聞えた。二丁目のほうへ曲るとすぐに、少年が走りながら振返った。

「小父さん築地を知ってるかい」

「――――」

「築地の飯田町さ」

「ああ知ってるよ」

「それじゃあね、そこに増六っていう船宿があるからね、あとを跟けられないようにそこへいってておくれよ」

「増六っていう船宿だな」

「そこで待ってればね、そこでだよ、そうすればあとからお嬢さんがゆくからって」

「おいおい」