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ふうりゅうたいへいき

風流太平記

山本 周五郎

「四国新聞」1952(昭和27)年12月12日~1953(昭和28)年7月13日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 244,473 字 · 487 页

青空文庫

彼は一刀流ではかなりの腕があり、江戸市中の剣士にも顔が売れていた。だがその彼にも、あの覆面の助勢者には記憶がなかった。

「よく見る暇はなかったが、凄いほど冴えた腕のようでしたね」

と吃りながら嘉助が云った。

「一刀、一刀、じつにみごとに相手を倒していました、あのくらい使える人はそう多くはないでしょう、花田さんそう思いませんか」

「えっ、なんですか」

万三郎は考えごとをしていたので、こう訊き返してから、頷いて答えた。

「慥かにあのくらい使える人は少ないと思いますね」

「どういうことだろう」

休之助には珍しく、そのことが頭から去らないようであった。

「敵にも気づかれなかったわれわれの行動を知り、最も危急と思われるとき助太刀に出てくれた、――いったいどうしてそうすることができたのか、そこがまったくわからない、殆んど不可思議というほかはない」

万三郎は暗い海の彼方へ眼をやりながら、独りで首を振ったり、口の中でぶつぶつなにか呟いたりした。

「そのほかに思い当ることはないし思い当る人もない」

彼はそんなふうに呟いた。

「しかし、どうもそうとは思われない、あの人が突然、こんな処へ現われるわけがない、だが、いや、そのほかには想像もつかないが、やっぱりそうとは思えない」