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ふうりゅうたいへいき

風流太平記

山本 周五郎

「四国新聞」1952(昭和27)年12月12日~1953(昭和28)年7月13日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 244,473 字 · 487 页

青空文庫

魯鈍で無表情な助の顔が、兇猛な野獣のように、ひきつったとみると、息杖を持ち直して侍のうしろから撲りかかった。

侍は片足をあげ、僅かに肩を反らした。すると、びしっという激しい音がし、助はつんのめって、湿った土の上へ毬のように転倒した。

どうしてそうなったか、見ている眼にもまったくわからなかった。八兵衛はあんと口をあけ、こいつはかなわない、ということを理解しながら、呆然とそこに立竦んだ。

「かよさん、そいつに酒手をおやんなさい」

と深編笠の侍は云った。

三

――酒手をやれ。

侍がそういうのを聞くと、どう勘違いしたものか、蝮の八兵衛はふいに逃げだそうとした。

「待て、なにを逃げる」

侍が叫んだ。

骨に徹するような声で、八兵衛は足がすくみ、及び腰になったまま動けなくなった。

「酒手をもらってやろうというのに、逃げるやつがあるか、まだきさま駄賃も頂戴してはいないんだろう、ばかなやつだ、――戻って来い」

「へえ、どうかひとつ、御勘弁なすって」

「いいから戻って来るんだ」

そう云いながら、侍は笠をぬいだ。それはかよの察したとおり石黒半兵衛であった。

八兵衛が戻って来ると、助もようやく起きあがり、二人でおそるおそるこっちへ来た。