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ふうりゅうたいへいき
風流太平記
山本 周五郎
「四国新聞」1952(昭和27)年12月12日~1953(昭和28)年7月13日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 244,473 字 · 487 页
「どんな妙な心持なんだ」
「いってみれば、まあ、その」
万三郎はふらっと手を振った。
「その、あれですよ、――こうきれいさっぱりと、すべてが水に流されたところは、いっそ風流といった感じじゃありませんか」
「あてずっぽうなことを云うやつだ、このために幾人か死に、みんな命懸けではたらいたのになにが風流だ」
「むろんその点は厳粛ですよ」
万三郎はちょっと頭を下げた。甲野家の犠牲者、林市郎兵衛、また敵側の少なからぬ死傷者や、断罪された人々に対して、心から低頭するというふうであった。そして、それから顔をあげて云った。
「しかしですね、それだけの事実が、まるっきり無いものになったというところは、どうも私には風流とでもいうほかに感じようがないと思うんですよ」
「私もそんな気持ですな」
中谷兵馬が云った。
「人間の栄枯盛衰、一年の春夏秋冬、およそとどめることの不可能なものに執着しないのを風流心とすれば、これまさに風流と観ずるよりしかたがないでしょう」
このとき半次は、おちづと二人で広縁に出ていた。
半次は木綿縞の単衣に角帯をしめていた。
おちづは髪をきれいに結いあげ、化粧をし、そのころ流行した秩父絹の、派手な格子縞の単衣に、鶯色の地に牡丹を染めた羽二重と黒繻子の帯をしめて、このまえよりいっそうおとなびてみえた。