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ふうりゅうたいへいき

風流太平記

山本 周五郎

「四国新聞」1952(昭和27)年12月12日~1953(昭和28)年7月13日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 244,473 字 · 487 页

青空文庫

――結局こういうところの連中がいちばん美味い物を喰べているわけだな。

そんなことを思いながら、箸を取って丼を引寄せると権あにいが向うから、

「おいあにい、ちょっとそいつは待ちねえ」

こう云って、湯呑をこっちへ差出した。

「さあ一杯、済まねえがつきあってくれ」

「有難いが、まあ、――」

と万三郎は首を振った。

「まあ今日は勘弁してもらおう、まだこれから稼がなきゃあならないから」

「それが挨拶か」

「怒られては困るが、お、おらあ、昼は酒を飲まないんだ」

万三郎はまだ先方の意図がわからない、本当に酒をすすめられてるものと思って、構わず丼に手をかけながら云った。

「用がなくって遊んでいるときならべつだが、仕事の中途で飲んだって美味くないしね」

「おれの酒が美味くねえって」

権あにいが云った。

「おまえさんは酒に弱いとみえるね」

万三郎はおあいそを云った。

「まだそう飲んだようすもないのに、もうたいそうな御機嫌じゃないか、そう怒らないで、まあそっちはそっちで」

「舐めるなわかぞう」

権あにいは立ちあがって、持っていた湯呑を土間へ叩きつけた。こんな家の湯呑だから厚手の丈夫なやつで叩きつけても割れなかったが、ほかの客は一斉に起った。