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ふうりゅうたいへいき

風流太平記

山本 周五郎

「四国新聞」1952(昭和27)年12月12日~1953(昭和28)年7月13日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 244,473 字 · 487 页

青空文庫

菊明り

一

ているだけなんですが、老女と遊んでいるときお子さんが、

――麹町六丁目の花田だがね。

などと大きな声で、誰かの口まねのようなことを仰しゃるのを聞いたというんです」

「松之助ですよ、それは間違いなしです」

「たぶんそうだろう」

徹之助は弟を抑えて市郎兵衛に云った。彼は妻子の安否よりも、その娘の存在のほうに気を惹かれたようであった。

「その娘というのは、なにか頼むことができるだろうか」

「それはもう頼みました」

と市郎兵衛は眩しそうな眼つきをした。

「じつはその八重という娘は、私と婚約がございますので、隙をみて御妻女と連絡をとるように、絶対にはたの者に気づかれてはならないからと云って、頼んでおきました」

徹之助は満足そうに頷いて、これで今日は散会にすると云った。

菊明り

一

万三郎は酔っていた。

彼は酒には強いほうだったし、たいてい飲んでも酔わない自信があった。

三人の護衛付きで、偽のつなに案内されたのは、御成り道に近い「和幸」という茶屋であった。増上寺へ参詣する人たちの休み茶屋らしいが、奥には離れ座敷が幾つもあり、植込の繁った庭のようすなど、どうやら出合茶屋といったけしきであった。