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ふうりゅうたいへいき

風流太平記

山本 周五郎

「四国新聞」1952(昭和27)年12月12日~1953(昭和28)年7月13日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 244,473 字 · 487 页

青空文庫

「その口ぶりをやめろ、ぶった斬るぞ」

相手はとつぜん喚いた。

「そう云われておれが好い気持になるとでも思うのか、きさまはおれを軽侮しているんだろう、おれの落魄したざまが可笑しいんだろう、それならなぜ軽蔑しないんだ、どうして笑わないんだ、どうしてだ」

万三郎はあっけにとられた。

「また始まったね」

女がこっちへ立って来た。そして万三郎の手を取って座敷のほうへ引入れながら云った。

「飲むとからむのが癖なんです、構わないでこっちへいらっしゃいまし、なにか云えば云うほどいきり立つんですから」

「しかしあの人は」

「いいの、飲み直しましょ」

万三郎を坐らせると、女は廊下にいる石黒半兵衛に云った。

「そこを閉めて向うへいってちょうだい、もうおわかりらしいから、万三郎さまも温和しくなさるでしょう、こんどはおちついて悠くりおあがんなさい」

半兵衛は黙って障子を閉めた。それで、庭先の仄かな菊の白さが見えなくなり、廊下を足音が遠のいていった。

「どうしておれを斬らせなかったんだ」

万三郎は盃を受けながら、こう云って女の顔を見た。女はにっとこぼれるように笑った。

「さあ、どうしてでしょう」