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ふうりゅうたいへいき
風流太平記
山本 周五郎
「四国新聞」1952(昭和27)年12月12日~1953(昭和28)年7月13日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 244,473 字 · 487 页
――おらあ屋敷で殿さまのお草履をつかむ人間だ、ばかにするな。
などと喚いていた。
殿さまといえば古木甚兵衛のことだと思ったので、そっと店の女房に訊いてみると、慥かにそのとおりで、彼は虎造という古参の下男だと教えてくれた。
万三郎は彼に酒を贅ってやり、また明日も会おうと約束をした。事をいそぐと危ないので、昨日は飯屋へ寄らなかったが、おそらく虎造は待っていただろう、今日も向うに呼び止めさせるつもりである。それは、こっちから近づきたがっている、と思われないための用心であった。
「炭はいらねえかね、炭の用はねえかね」
その飯屋はもうそこに見えてきた。
店の名はなんと「大めし」というのである。いかに田舎でもあんまり直截すぎる。やけになって付けたのかとも思うが、町では勉強する店として評判のようであった。
万三郎はその店の前で、わざと大きな声をあげたが、同時にぎょっとして、危うく躓きそうになった。
下女を伴れた娘が一人、向うから来るのを見たのだ。
それはかよに似ていた。
――まさか。
一度は眼を疑ったが、近づいて来るのを見ると紛れもなくかよであった。
万三郎は笠の前を下げた。