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ふうりゅうたいへいき

風流太平記

山本 周五郎

「四国新聞」1952(昭和27)年12月12日~1953(昭和28)年7月13日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 244,473 字 · 487 页

青空文庫

「しまった、発見されたぞ」

又平は呻いた。

――花田はどうしたろう。

――どう切抜けよう。

二つのことが同時に頭へのぼった。かれらは万三郎を斬って来たのかもしれない。そうだとすれば江戸へ連絡することのできるのは自分だけだ。そうでなくとも此処でむざむざ死んではならぬ、どうやって脱出するか。

「――又さん、へんだぞ」

友吉老人が首を出した。

「――へんな侍たちが堤の上で」

又平は黙れというふうに手を振った。それから低い声ですばやく囁いた。

「川の流れは強いか、深さは」

「深いだよ、流れも早いだ」

又平は舌打ちした。彼はまったく泳げないのである。そこは鬼怒川の本流と支流との合するすぐ上で、川幅もかなりあるし、深さも流れの速度も強い、泳げない者ではとうてい渡れる望みはなかった。

――武術などというものは、もう無用の骨董だと思ってばかにしていたが、こういうことになってみると。

そんなことを思いながら、彼は刀を長半纒の下に隠し、帯をぐっとひき緊めた。

以上は極めて短い時間のことであった。老人が首をひっこめ、彼が帯をひき緊めたとき、岸のほうから人の叫ぶのが聞えた。

「中にいる二人、出て来い」