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ふうりゅうたいへいき

風流太平記

山本 周五郎

「四国新聞」1952(昭和27)年12月12日~1953(昭和28)年7月13日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 244,473 字 · 487 页

青空文庫

肩に刺さった小柄は抜いたが、自分が傷ついているという意識と、初めて真剣で立会うという異常な経験とで、躯じゅうの血が頭へのぼり、があっと耳の鳴るのが感じられた。

若侍が跳んだとき、又平は本能的にひと足さがったが、さがりながら夢中で刀を横に振った。それが偶然どこかへ当ったらしい、相手は「あっ」といってよろめいた。

――やったぞ。

又平はこう思ったが、その刹那に眼がはっきりし、足がぴたっと舟板に付いたように感じた。

相手の若侍の、袴の左がだらりと垂れていた。又平の刀は彼の太腿を斬ったらしい、股立を取っていたのが半ばから切られて垂れ、血の色は(もう暗いので)わからないが、そこがみるみる濡れていった。

若侍は狂人のように叫んだ。暗い黄昏の中で、白い歯が見え、叫ぶと同時に、躯ごと叩きつけるように斬込んだ。

足場が狭いから避けようがない、又平は峰を返して受け止めながら、逆に猛然と躰当りをくれた。

舟はそのとき、中流の強い流れに乗ったので、斜めになったまま、ぐらっと大きく川下のほうへ引かれた。躰当りをした二人は、そのために足をとられ、又平は危うく舳先で身を支えたが、相手は太腿を斬られているためか、のけざまになって川の中へ転げ落ちた。