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ふうりゅうたいへいき
風流太平記
山本 周五郎
「四国新聞」1952(昭和27)年12月12日~1953(昭和28)年7月13日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 244,473 字 · 487 页
そのなかの一人、――万三郎から四五間下流にいる男が、ときどきこっちへ声をかけた。それは古木家の下男頭だという、あの虎造であった。
「どうだきょうでえ、もういいかげんにあがらねえか」
「うん、まあもうちっと、――」
万三郎は不決断に答えた。
「おらあもういっそく(百)四五十もあげたぜ、そろそろひきあげて一杯やるとしようや、おらあもう躯の芯まで冷えきっちまった」
「一杯もいいが、――おらあまだ、十尾も釣らねえんでね」
「釣れねえものはしようがねえ、こいつばかりは勘のもんだからな、いいからもうあがるとしようじゃねえか」
「うん、――まあもうひとっ時」
万三郎は動くけしきもみせなかった。
彼は釣糸を垂れているが、魚釣りが目的ではなかった。そこから半町ほど下流に、水戸街道が通っている。彼はそこを見張っているのであった。
ちょうど十日まえ、――
古木邸の裏門から、紀州家の荷駄らしいものを、夕方から夜にかけて運び出す、ということを聞いて、万三郎はそのゆく先をつきとめようと決心した。
そうして、街道口の大橋のところで待っていると、斧田又平が捜しに来て、自分たちの所在が気づかれ、つなぎ船を襲われたことを話した。