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ふうりゅうたいへいき

風流太平記

山本 周五郎

「四国新聞」1952(昭和27)年12月12日~1953(昭和28)年7月13日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 244,473 字 · 487 页

青空文庫

「こうしなければならないんだ」

と彼は云った。

「どうか勘弁して呉れ」

謡の声はもうやんでいた。

万三郎は階段を登り、用心ぶかくようすをうかがった。有明行燈の光りで、座敷牢の太い格子が見えた。しかし逆光線なので、中にいる人の姿はわからなかった。

――ほかに人はいない。

彼は低い声で呼びながら、そっちへ駆け寄った。

「つなさん、私です」

ああと呻くような声が聞えた。

万三郎は格子の側へゆき、錠前をあけた。昂奮しているし、指が凍えているので、二度も三度も失敗した。

「ああ、万三郎さま、ああ、万三郎さま」

中でそう呟くのが聞えた。

つなが自分の両手を胸の上でしっかりと握り合せ、祈るような、涙のいっぱい溜まった眼で、じっと万三郎をみつめながら、殆んど夢中に呟いているのであった。

高い音と共に、錠があいた。

九

つなは静かだった。

とびついて来るかと思ったが、そうではなく、身をちぢめてすっと出て来ると、おちついた声で云った。

「有難うございました」

そしてなにか慥かめるような眼で万三郎を見あげながら、

「貯蔵庫の在り場所はわかりましたでしょうか」

と訊いた。万三郎はうっと云った。