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ふうりゅうたいへいき

風流太平記

山本 周五郎

「四国新聞」1952(昭和27)年12月12日~1953(昭和28)年7月13日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 244,473 字 · 487 页

青空文庫

そのまるい眼がすばやく左右に動いていた。

「紀州さまお浜屋敷でございますな」

と若侍は門番に云った。

「甲野殿を訪ねてまいった者ですが、通って宜しゅうございますか」

「失礼ですが御姓名をどうぞ」

老人の番士がもの憂げに云った。

「長崎からまいった花田万三郎という者です、休之助の弟で、手紙が届いている筈です」

「すると、――」

老番士の顔が驚きのために緊張した。

「するとお手前さまは、甲野休之助殿をお訪ねでございますか」

「そうです」

「それはそれは」

老番士は声をはずませた。すぐにはあとが続かないらしく、痩せた頸の大きな喉ぼとけを二三度も上下させた。

「こうのと仰しゃったので、ほかのこうのさまかと思いましたが、甲野休之助さまだとすると非常にお気の毒でございます」

「甲野がどうかしたのですか」

「ゆうべ自火をお出しなさいましてな、夜半の、さよう子ノ刻半(一時)ごろでございましたろうか」

「自火というのは火事ですか」

若侍はじれったそうに訊き返した。

「さよう、とつぜんの出火で」

老番士は舌っ足らずな口ぶりで続けた。

「まったくとつぜんの出火で、それもたいそう火のまわりが早かったものですから、人が出てみたときは貴方もう、屋根が焼けぬけておりましてな、まるでもう手のつけられないありさまでして」