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ふうりゅうたいへいき

風流太平記

山本 周五郎

「四国新聞」1952(昭和27)年12月12日~1953(昭和28)年7月13日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 244,473 字 · 487 页

青空文庫

おちづはふと身ぶるいをした。

寒さのためではない、半次に不吉な事が起こったような予感がしたのである。

「――半ちゃん」

彼女はふらふらと浜松町のほうへ歩きだした。

そのとき、右側の居酒屋の雨戸があいて、二人の酔漢が出て来た。おちづは気がつかずに通り過ぎたが、二人は彼女を見て、互いにちょっと頷きあい、ひょろひょろとあとから追って来た。

「おい、待ちな、ちい公」

おちづは振返った。

「誰だい、――」

「誰だいはねえだろう、おれたちだよ」

「なあんだ」

おちづは鼻を鳴らした。

「お相撲くずれの三島に屁十じゃないか、何か用かい」

「おっそろしく威勢がいいな」

屁十が云った。

この二人のならず者は、去年の冬の初めごろ、新銭座の「ぶっかけ」の前で、権あにいならびに「禿」と信州の五人で万三郎にいんねんをつけた。そのとき格闘になり、「禿」のやつがまごついて、丸たん棒で万三郎を殴る代りに、三島の頭をどやしつけ、おかげで三島は五十日ばかり眼が見えなくなった。――いまでは三島の眼は治ったが、それ以来あたまが少しおかしくなり、舌がよくまわらず、酔うと手のつけられない人間になっていた。