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ふうりゅうたいへいき

風流太平記

山本 周五郎

「四国新聞」1952(昭和27)年12月12日~1953(昭和28)年7月13日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 244,473 字 · 487 页

青空文庫

「山猫だって、――」

おちづは眉をつりあげた。

「あたいを山猫だって」

「おれじゃねえよ、世間でそ云ってるんだ、この頃みんなが蔭でおめえのことをそ云ってるんだ、だからおらあちい公が可哀そうで、いつか折があったら悠くり慰めてやろうと、なあ、――そうだなあ三島」

「うん、そうら、そうらとも、おらっちれゆっくいなぐさめてやろうとら、ほんとらろ」

「やかましい、どかねえか」

おちづは叫びざまに、屁十の向う脛を蹴った。だがそれがまずかった、二人はそういうきっかけを待っていたらしい。

「おっ、やるか阿魔」

屁十は逆にとびかかった。同時に、脇から三島もつかみかかった。

おちづはかれらを舐めていた。これまでついぞ一度も、人に負けたことがない。彼女が辛辣な舌でまくしたて、着物の裾をくるり捲ってみせると、どんな相手も恐れをなして退散した。たまに捉まえようとでもする者があれば、爪と歯で傷だらけにされ、悲鳴をあげて逃げるのがおちであった。

――屁十と三島なんぞ。

こう思っていたのだが、そのとき、二人に抱きすくめられると、おちづは身動きができなくなった。

「畜生、なにをするんだ」

叫ぶ口を三島が手で押えた。