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ふうりゅうたいへいき
風流太平記
山本 周五郎
「四国新聞」1952(昭和27)年12月12日~1953(昭和28)年7月13日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 244,473 字 · 487 页
その夜の調査もうまくいった。
もう庫入れの仕事はすっかり終ったのだろう、万三郎が伝次と共にいったときは、所内はひっそりとして、木戸の立番のほかには人影もなかった。
彼は番士たちの小屋から、他の三カ所の木戸(一は谷の口、二は谷の両側にあり、万三郎の入ったのは谷尻に当っていた)そして厩と、糧秣庫。また多量の繩、藁、蓆を積んだ納屋などの所在をつきとめた。
ただ一度だけ危ないことにぶっつかった。
番士小屋の脇をぬけていると、いきなり引戸があき、一人の侍がとび出し、あとから二人が追って来た。
初めにとび出して来た侍は、ひどく酔ったうえに昂奮しているらしい。とび出して来たのがあまり突然だったので、万三郎は躰を躱したが、その侍のほうでだっと突当った。
「無礼者、なにやつだ」
とその侍は喚いた。
万三郎はのめりそうになり、横っ跳びに二三間、脇へ避けながらあっと思った。
――石黒半兵衛。
相手は紛れもなく彼であった。
「へえ、ごめん下せえまし旦那」
と万三郎は離れた処からおじぎをしながら云った。このときほど覆面黒装束の忍び姿が有難く思えたことはなかった。
あとから追って来た二人が、すぐに半兵衛を抱き止めた。