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ふうりゅうたいへいき
風流太平記
山本 周五郎
「四国新聞」1952(昭和27)年12月12日~1953(昭和28)年7月13日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 244,473 字 · 487 页
「三郎、おまえはいいから、先に首尾を知らせに帰れ」
休之助が万三郎に云った。
「だって手が足りないでしょう」
「どうせ素人の手には負えやしない、伝次を医者の迎えにやって、おれたちはできるだけ早く江戸へゆく工夫をするんだ」
「しかし休さんはどこか怪我をしているんでしょう、知らせに帰るんなら休さんが」
「おれの云うとおりにしろ」
休之助が云った。
「おれは頭を打ってちょっと気を失っただけだ、おれのことを心配するより、自分がよけいなことをしないように気をつけるがいい」
「そのとおりでしょう多分、いやいいです、帰りますよ」
万三郎は伝次たちに労を謝して、観音谷から去った。
焼け落ちた建物はまだ赤々とくすぶり、谷は煙に閉ざされていた。石黒半兵衛はもう元の処にはいなかった。忠告を容れて立退いたものかどうか、――煙に閉ざされた谷を見かえりながら、万三郎はそっと口の中で呟いた。
「これでこの谷は、元の静寂にかえるだろう、こんな貯蔵所が造られたことも、この一夜の死を賭した争闘も、やがて時に押し流されて消えてしまい、あとにはただ叢林が茂るに違いない、人間のすることなんて、はかないものだ」