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ふうりゅうたいへいき

風流太平記

山本 周五郎

「四国新聞」1952(昭和27)年12月12日~1953(昭和28)年7月13日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 244,473 字 · 487 页

青空文庫

しげもり稲荷までゆくと、半次は湿っぽくて小さなその境内へ入った。その辺はもう人家もまばらだったし、どちらを見ても樹が多く、堀の向うには畑などもあって、どんな田舎へ来たかと思われる景色だった。

「ねえ半ちゃん、あたしを嫌わないでよ」

おちづは哀願するように云った。

「あんたに嫌われて、あんたに逃げてゆかれたら、あたしやけになってしまうわ、やけになってうんと悪い女になっちまうわよ」

「おら嫌ってやしねえよ」

半次は細い杉の木に凭れかかって、気取ったふうに腕組みをした。

彼はすっかり機嫌が直っていた、自分がもういちにんまえで、相当の思慮もあり、しようと思えばなんでもできるような心持だった。

彼はいかにも考え深そうに、やさしい眼でおちづを眺めた。

「おいらちっとも嫌ってやしねえよ、だけれど本当について来られちゃ困るんだ、おいら覘われている躯なんだから、おれの頼まれてる仕事はたいへんな秘密で、覘ってるやつに嗅ぎつけられたらなにもかもおじゃんになっちまうんだ、頼んだ人がそう云ったんだから、ほんとだぜちい公」

そこまで云って、半次はとつぜんあっと叫んだ。

「またあいつだ、見ろよあれ」