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ふうりゅうたいへいき
風流太平記
山本 周五郎
「四国新聞」1952(昭和27)年12月12日~1953(昭和28)年7月13日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 244,473 字 · 487 页
云いかけて、かよは庭のほうを横眼で見た。
誰か庭先へ来たように思ったのであるが、横眼で見ると、若い女がこっちへ近づいて来るところだった。
それは甲野のつなであった。
すっかり武士の娘姿になり、髪もきれいに結いあげてどうやら薄化粧をしているらしかった。こちらのようすにはまだ気がつかない、かよは微笑した、嬉しくって堪らないという微笑だった。
「こんどはそっとなすってね」
かよは鼻声の舌ったるい口ぶりで、こう云いながら胸を前へさし出した。乳房が顔へ当りそうになり、万三郎は身を反らした。
「そんなに動いてはだめです、少し動かないでいて下さい」
「だって痛いんですもの」
「動くからですよ、じっとしていれば、――もうちょっとこっちへ向いて下さい」
つなは縁先まで来た。そして、そこでぴたっと立停った。
まるで急に石にでもなったように、ぴたっと立停り、大きくみはった眼で、座敷の中の二人を見た。
「あらいやあ――擽ったい」
かよが嬌声をあげた。
六
つなの顔は紙のように白くなった。
彼女は見た。――いちどは自分の眼を疑った、それはあり得べからざる情景であった、これまで見たこともないし、想像したこともなかった。