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ふうりゅうたいへいき
風流太平記
山本 周五郎
「四国新聞」1952(昭和27)年12月12日~1953(昭和28)年7月13日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 244,473 字 · 487 页
万三郎は右がわに置いた刀を取った。
――もしそうだとすれば。
と彼は心のなかで思った。
――ひとのことを飯でひっかけるなんて卑劣だぞ、しかもこんなに腹の減っているときにさ。
突然ぴゅっ、となにかが万三郎の頬をかすめ、うしろの壁で「ふつッ」という音がした。
まったくの不意うちである。
首をすくめながら振返ると、壁に一本の矢が突立ってまだぶるぶると震えていた。
――弓だ。
彼はちょっと足が竦んだ。そこへ二の矢、三の矢と、続けざまに矢が飛んで来た。
ぴゅっ ぴゅっ。
万三郎はかっとなり、刀を持って左へ、玄関のほうへ行燈を蹴倒しながら跳躍した。かっとなった頭の中で、休之助の怒った声が聞えた。
――またか、三郎、またか。
七
行燈を蹴倒したので、数寄屋の中は暗くなった。
だが敵には敵の用意があった。
矢は坪庭のほうから来たので、彼は水屋から裏へとび出したが、すぐ眼の前へ、松明を持ったのが三人、素槍の穂をぎらぎらさせたのが五六人、ばらばらと押詰めて来た。
――いけない。
彼は刀を抜きながら引返し、玄関へ出てみた。
そっちも同じことであった。
いつもそんなに用心しているのか、何十という松明、(万三郎にはそう見えた)がぐるっと並び、抜刀や素槍を持ったのが、まるでこの数寄屋を囲んで人垣を作っていた。