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ふうりゅうたいへいき

風流太平記

山本 周五郎

「四国新聞」1952(昭和27)年12月12日~1953(昭和28)年7月13日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 244,473 字 · 487 页

青空文庫

鼠は紐で縛られていた。

おちづはもっと顔を寄せて見た。紐は石倉の下へと続いていた。土台石のひとところに、ちょうど小鼠の出入りできるくらいの隙間がある、その鼠は紐につながれて、その隙間から出て来たものらしかった。

「あらいやだ、罪なことをするわねえ」

おちづはこう云って、さらにまた気がついた。

小鼠の首に白い物が巻きつけてあるのだ。おちづは急に興味を唆られ、はいていた庭下駄の片方をぬいで、すばやく鼠を押えつけ、巻いてあるその白い物を取った。

懐紙を折って結びつけたものであった。

「――手紙だわ」

ひろげて見ながら、おちづはそう呟き、同時にぞっと背筋が寒くなった。

自分が女衒の手から手へ渡りながら、きびしく檻禁されていたときのことを思いだしたのである。その紙には字が書いてあった。おちづには読めないが、字が書いてある以上は、誰かが石倉の中にいるのだろう。

――そうに違いないわ。

自分が暗い納戸に押込められていたときの、恐怖と絶望が思いだされた。

ちちち、ちち。

鼠が悲鳴をあげた。見ると、土台石の隙間の中へ、紐で引き込まれるところであった。慥かに、石倉の中に人がいて、その鼠を引き戻すようであった。