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ふうりゅうたいへいき

風流太平記

山本 周五郎

「四国新聞」1952(昭和27)年12月12日~1953(昭和28)年7月13日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 244,473 字 · 487 页

青空文庫

「いや失礼、――」

兵馬は笑いやめて云った。

「あのときのことを思いだしたもんですから、そう、あの女に付纒われれば誤解されるのは当然でしょう、いや誤解じゃあない、あの女は本気ですからね」

「冗談じゃない、中谷さんまでがそんな」

「いや私は見ていました、和幸のときによく見ていましたが、あの女は、云ってみれば貴方に首ったけですよ」

「ところが、あの女に首ったけの人間がいたんです」

万三郎は話をそらした。

「それこそ夢中になっている人間が二人いましてね、そのために一人はやはりわれわれの手で押えましたが、もう一人は、――」

そう云いかけて、万三郎はふいに「あっ」と声をあげ半身を起こした。

――そうか。

と彼は心の中で呻いた。

六

「どうしました」

兵馬が不審そうに振向いた。

万三郎がいきなり起きあがったので、なにごとかと驚いたらしい。万三郎も自分で気がついて、ちょっと苦笑をもらした。

「いや、じつは今、とつぜん思い当ったことがあるんです」

「あの女に首ったけの男ですか」

「その一人なんですが」

万三郎は兵馬のほうに向き直った。

「中谷さんは石黒半兵衛という剣士を覚えていますか」