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ふうりゅうたいへいき
風流太平記
山本 周五郎
「四国新聞」1952(昭和27)年12月12日~1953(昭和28)年7月13日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 244,473 字 · 487 页
八重が帰ったあと、妻子救出の舟に、村野伊平と添島公之進をやることに定め、その手筈を済ませてから、徹之助はすぐに、駕籠を命じて寮を出た。
――左近将監頼興を押えよう。
紀伊在城の頼興が、幕府に届けもなく、ひそかに江戸へ潜入したということは、なによりの好機会である。先手を打ってこの事実を押えれば、「朱雀事件」の本源を潰すことになるだろう。
――それには早いほどいい。
こう思って彼は松平伊豆守の邸へ駕籠をとばしたのであった。
ようやく春たけなわな二月下旬の空に、しきりと白雲のながれる午後のことであった。
猿橋
一
甲斐のくにの猿橋が、奇橋として名高いのは記すまでもないだろう。休之助はじめ四人の者は、江戸を出てから三日めに、猿橋の宿へ着いた。
四人いっしょでは眼につきやすいので、休之助と太田嘉助、万三郎と中谷兵馬、という二た組にわかれた。
泊る駅は勿論同じだが、宿屋もべつにするし出立もべつ、途中も常に二三町の間隔をおくようにしていた。
万三郎と兵馬は、笹屋平吉という宿に泊った。兵馬は酒が好きなので、風呂からあがるとすぐに膳拵えを命じ、街道の見える窓をあけ放して、ゆっくり飲み始めた。