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ふうりゅうたいへいき
風流太平記
山本 周五郎
「四国新聞」1952(昭和27)年12月12日~1953(昭和28)年7月13日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 244,473 字 · 487 页
「いったい、ど、どうしたんです」
彼は吃った。
「こちらへいらしって、――」
かよは手招きをした。
万三郎はすばやく四辺に眼をやり、休之助が見ていないことを慥かめて、石塁の脇へ入っていった。
「なんという乱暴なことをするんですか、なんのためにこんな処へ来たんです」
「わたくしのことより」
と云ってかよはそこへ身を跼めた。
それで初めて気がつき、見るとそこに、石黒半兵衛が倒れていた。半兵衛はもう覆面はしていなかった、剛い髭の伸びた顔は蒼ざめ、唇が白くなり、半ば開いた眼はつりあがっていた。それらは、焔の明りの下で、あまりにはっきりと、死の迫っていることを示した。
「――石黒先生」
万三郎は膝をつくと、こう叫びながら半兵衛の手を握った。
九
「――花田さん」
半兵衛はつぶれたような声で答えながら、焦点のぼやけた眼で万三郎のほうを見た。
「うまくいったようですね、おめでとう」
「先生、どうして貴方は」
と万三郎は半兵衛の手を固く握り緊め、声をふるわせながら云った。
「なぜ貴方はこんなことをなすったのですか、私は先生に生きて頂きたかった、石黒先生として生きて頂きたいために」