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ふうりゅうたいへいき

風流太平記

山本 周五郎

「四国新聞」1952(昭和27)年12月12日~1953(昭和28)年7月13日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 244,473 字 · 487 页

青空文庫

「それはなによりだ」

万三郎はそのまま風呂場へ下りていった。

――なにがどうしたっていうんだろう。

風呂場の中でも彼は思い惑った。

――一家ぜんぶ焼死。

――どうしたわけだ。

風呂から出て、熱い茶を啜りながらも、万三郎はおちつくことができなかった。

「あの子供は捉まるとおれも殺されるといった、おれが殺されるって、誰に、なんのために殺されるんだ」

独り言を云いながら、窓の外へ眼をやった。

昏れかかって明るい海の上を、帆をおろしながら帰ってゆく漁舟がつぎつぎにはしり過ぎた。岸に沿って小さな堀があり、この増六の持ち舟であろう、屋根舟をまぜて、七艘ばかりもやってあった。

左のほうに明石町へ渡る寒さ橋が見え、いそぎ足に往き来する人の姿が、いかにも夕暮らしく侘しく眺められた。

「麹町の家へいってみるか」彼はふとそう呟いた。

しかし立つ気はしなかった。少年はそこで待っていろと念を押した。そこで待っていればお嬢さんがゆく、――お嬢さん。

「てんでわからない」

やけのように首を振り、彼はそこへ横になった。

「ぜんぜん夢のような話だ」

横になるとにわかに旅の疲れが感じられた。