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ふうりゅうたいへいき
風流太平記
山本 周五郎
「四国新聞」1952(昭和27)年12月12日~1953(昭和28)年7月13日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 244,473 字 · 487 页
万三郎は雨水の溜まった路上に転倒したが、そのとき見た男の姿が、今そこにいる相手の躯つきそのままである。昼間はわからなかったが、灯を背にして立っているのを見て、初めて、はっきりと思いだした。
――決して間違いはない、あのときの男だ。
こう気づくと慄然とした。
このまえのときも、よろめきながら去ってゆくうしろ姿には、一種の凄味があった。それは「妖気」といったふうな、かなり異常なものであったが、今、眼の前に立っている躯からも、それと同じものが感じられた。
――段違いの腕だ。
万三郎はそう直覚した。
――しかも尋常の剣ではない。
万三郎は肚を据えた。
「やあどうも、これほど用心堅固とは思わなかった、失敗ですな」
「黙ってあがれ」
「あんまり手荒にしないで」
座敷の中から女が云った。
「あたしの大事な人なんだから、足が汚れていたらこれを使わしてあげて」
手拭を投げてよこした。万三郎はそれで足を拭きながら、男を見あげて云った。
「後学のために聞かしてもらおう、よほどの腕とみえるが、いったい貴方は誰です」
「おれの腕がわかるのか」
「鷺と鴉ぐらいの見分けは誰にだってつくさ、これでも念流と小野派を少しばかり噛っているからね、名を聞かせてもらえないか」