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ふうりゅうたいへいき

風流太平記

山本 周五郎

「四国新聞」1952(昭和27)年12月12日~1953(昭和28)年7月13日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 244,473 字 · 487 页

青空文庫

つまり出奔して来い、と云わんばかりであるが、万三郎は迷わなかった。休之助は信じていい人間だし、花田の兄も承知らしい。また、なによりも江戸へ帰りたかった。

――江戸へ。

彼は命令どおり、すぐに支度をして、長崎をとびだしたのであった。

「待て待て、――」

と万三郎は起き直った。

「こいつは簡単じゃないぞ」

甲野の兄はなんのために彼を呼んだのであるか。そんなにも急に、出奔して来い、というほど性急に。

「問題はそこにある」

休之助には彼が必要であった。彼を必要とするなにかがあった。ほかの人間ではなく、特に万三郎を呼ぶ必要があったのだ。

――そのことは花田の兄も承知のうえである。

役所のほうは花田の兄が手配する、というからには、長兄の徹之助も知っているのに違いない。

――花田の兄は大目付の書役である。

こう思いながら、「大目付」という役柄がふっと万三郎の関心をひいた。そこになにかある、なにか大きな問題がそこにある、ということが感じられた。

もちろん漠然とした直感にすぎない。どんな問題があるとも想像はつかないが、なにかしら大きな、しかも異常なものがある、という感じは彼の頭の中にしっかりと根を張った。